2023年王座戦決勝トーナメント準々決勝の藤井聡太vs村田顕弘戦を解説している記事です。
棋士人生を懸けて戦った村田六段は村田システムで勝勢を築くも”6四銀”の銀のタダ捨てと”5九金”の金捨ての藤井マジックに急転直下の大逆転。
最後は”龍切り”からの鮮やかな25手詰み。
「将棋は怖い。そして藤井聡太も怖い」そんな将棋でした。
目次
対局前の村田顕弘の意気込み
「棋士人生を懸けて戦う」
と対局前に語った村田顕弘六段。
村田先生はかつて関西若手四天王の一人として活躍を期待されていました。
関西若手四天王は豊島将之、糸谷哲郎、稲葉陽、村田顕弘の四人のことで、村田先生以外の三人はすでにタイトル獲得や棋戦優勝の経験を持ち、関西若手四天王の名に恥じない華々しい活躍をしています。
しかし、一方の村田先生はというと、段位も六段と他の三人に遅れをとっています。
「彼らが必死に将棋の勉強をしている時に自分は遊びすぎました。トップに向かう貴重な時期に、自分は将棋に一生懸命向き合えなかった」
と村田先生。
棋界のトップである藤井聡太先生とは過去3戦3敗。
最後の対局は2019年のC級1組順位戦で負けて以来4年ぶりの対戦となりました。
今回の対局で採用した”村田システム”はこの間に生み出した村田先生のオリジナル戦法です。
「棋士として個性を出せないのはさみしい。といって今はAIに逆らうだけでもダメ」
「将棋は人間同士が指すゲーム。序盤からAI通りに指さなくてもいい。自分の感覚でいいと、藤井さんを相手に証明したかった」
「(藤井が)8冠を獲られるか注目を集めている。“止めたい”ではなく、棋譜で証明したい」
と対局前に村田六段は意気込みを語りました。
対する藤井聡太先生は七冠を保持しており、最後の一冠である”王座”を奪取すべく、今期の王座戦の決勝トーナメントを勝ち抜かなくてはならない状況にいました。
トーナメント戦なので、一回負ければ、八冠の夢は来年に持ち越しとなります。
しかも、保持している七冠全てを防衛した上での再度の王座戦の決勝トーナメントを勝ち上がり、王座のタイトル戦で勝つ必要があります。
なので藤井先生にとっては絶対に負けられない戦いだったのです。
村田顕弘vs藤井聡太
第71期王座戦 挑戦者決定トーナメント準々決勝
- 日時:2023年6月20日
- 先手:村田顕弘 六段
- 後手:藤井聡太 竜王・名人
- 場所:関西将棋会館
- 時間:5時間
村田システムで勝勢
宣言通り先手の村田顕弘六段は”村田システム”を採用しました。
村田システムとは角道を開けずに銀の活用を急いで、押さえ込みを狙う戦法です。
藤井聡太七冠の得意としている”角換わり”の将棋を避ける意味でも、対藤井戦には有効な作戦だと思われます。
そして、局面は進み先手勝勢の局面を村田六段が築き上げます。
まさに完璧な指し回しの隙のない将棋で、AIの評価値は村田94%、藤井4%と大差。
持ち時間にもかなり差があり、藤井先生は残り時間わずかなのに対して、村田先生は1時間以上も残していました。
そして、村田先生が藤井玉を寄せにかかります。
「寄せ切れればわかりやすく勝てるので、攻める順を時間を投入して考えていたんです。でも掘り下げたら届かないことがわかった」
終盤に藤井先生が村田先生の角頭に桂馬を打ったところで1時間7分を投入。
「角をかわさずに勝とうとして、寄りそうで寄れなくて時間を使ってしまった」
ギリギリのところで耐えている藤井玉、そして、局面は進み、藤井マジックが炸裂します。
藤井マジック”6四銀”
後手の”6四銀”という手が藤井七冠の勝負手。
”角”でタダで取られるところへ”銀”を移動させていますが、この”銀”を”角”でとってしまうと、先手玉(村田玉)が詰んでしまいます。
「6四銀は藤井がまいた毒まんじゅう」
とネットでも呟かれていました。
ちなみにこの”6四銀”を指した藤井先生はすでに1分将棋に入っていました。
6四銀に対しての解説陣の反応は以下。
本田女流「うおーーー」
千葉七段「うおーーー」
千葉七段「いやーなん…なんですか?なんですかが来ましたね…」
この時はまだ、先手の村田六段が優勢でしたが、手は進み80手目にもう一発藤井マジックが放たれます。
第二の藤井マジック”5九金”
この”5九金”も”銀”で取られるところへと指した驚愕の一手で、控室も驚いていました
なぜなら、先手は”金”を手に入れれば、相手玉を詰ますことができます。
そんな状況で、金を取らせる手を指す藤井聡太七冠。
この時、両者1分将棋。
1分でこの手の善悪を読み切らなければいけない状況で、先手の村田六段は”同銀”を応じました。
大逆転からの25手詰み
この手を指してAIの経価値は急転直下。
村田4%藤井94%となり、形勢は大逆転。
次に後手の”7五銀”と香車を取った手が”詰めろ逃れの詰めろ”になっています。
「対局中はどこで逆転したのかわからなくて、最後のほうまで自分に勝ちがあったよな、と思っていました」
と村田六段。
最後は後手の”龍切り”からの25手詰めです。
1分将棋で25手詰めを読みきる藤井七冠の凄さに村田六段も
「詰まされた時は実はそこまでショックでもなくて、『あっ、詰むんだコレ、へー』っていう感じで、詰め将棋を解かれたような感覚でしたね」
とコメント。
局後、藤井聡太七冠は「龍切って勝ちになったと思った」と語っています。
誰もが、先手勝ちを確信した状況で、藤井七冠はただ一人諦めていませんでした。
実際、藤井先生が優勢だった時間は最後の10分ほどだけでした。
対局後の村田六段のコメント
「用意した作戦がうまくいって、中盤以降も自分の形勢判断通りに指せていた。ただ優勢な将棋でも時間が残っていないと勝ち切れない。本譜の角を出る手を指すならまだヤマがあるので、時間を残さなきゃいけなかった。でも長考して、寄せにいく手にすがってしまったんです」
「(藤井は)やはりところどころ、自分が全く見えなかった手を指されていて、勝負勝負とこられ、藤井七冠に勝つ大変さを思い知らされました」
「人間同士の勝負なら、自分の感覚とかやりたい手をやっても十分通用するということを証明したくて、そこに人生をかけているので。対局の2週間ぐらい前から禁酒をしたり、朝から晩までパソコンの前に張り付いてAIで研究したり、実践をパートナーを選んでやったりとか、私にとってはそこまでシビアに事前準備をしたことがなかったので、そういう風に臨んだつもりでした」
プロ棋士のコメント
山本博志
「将棋こわい。藤井聡太こわい」
鈴木大介
「ホテルの部屋で王座戦観戦。
この将棋を勝つのか…
村田六段、完璧な指し回しだっただけに信じられない。
それにしても…これを接戦に持ち込み、最後には詰ましちゃうのか。
言葉にならない凄みがありますね。
興奮覚めませんが、明日は対局なので無理やりでも寝てみます。」
中村太地
「対逆転勝利だけど運で勝ってるわけじゃないというか。言葉が難しいですけどそんな感じですね。」
山口恵梨子
「すごすぎる…」
大平武洋
「ワンミスも許されないのか」
脇田菜々子
「まさかこんなことが…」
勝又清和
「いやあああ」
豊川孝弘
「ベートーヴェーン!秒読みは魔物!!」