【渡辺明vsボナンザの棋譜解説】運命の一手で竜王の勝ちになった将棋

渡辺明vsボナンザの棋譜解説

渡辺明vsボナンザの棋譜を解説した記事です
”6四歩”に「強すぎる」と、うなった渡辺明と。
最後まで自身の有利だと評価していたボナンザ。
その逆転劇には雌雄を決した運命の一手がありました。
渡辺明が負けを覚悟した対コンピュータとの将棋です。

 

先手ボナンザ「7六歩」

持ち時間はお互い2時間。切れたら60秒将棋。

先手番となったボナンザの”7六歩”で対局は始まりました。

先手ボナンザ7六歩

先手ボナンザの初手7六歩

そして、戦型はボナンザの四間飛車になります。

四間飛車

四間飛車にしたボナンザ

これは渡辺明も予想通りの展開でした。

そこから手が進み”1九香”でボナンザは穴熊囲いを目指します。
ここまでは定跡通りの進行なので、両者共にほとんど時間は使っていません。

そこで渡辺明は22手目に3二金と指してあえて定跡を外しました。

3二金

渡辺明が定跡を外した3二金

ここでボナンザは初めて時間を使って考えます。
これはボナンザが本格的に稼働したことを意味していました。

「自分の態勢が整うまで攻めさせないようにした」
渡辺明

渡辺明は攻めが強いボナンザの急戦を警戒していたようです。
そして、渡辺明の予定通り、持久戦模様の相穴熊の将棋になります。

相穴熊

相穴熊

上図の6六歩から両者”角”を交換しますが、これは渡辺明が全て誘導したものでした。

「ボナンザは持ち駒の”角”を必ず打ってくる」

棋士仲間とボナンザを研究していた渡辺明はボナンザの弱点を発見していました。

4二金とした局面

7一角を誘導した渡辺明

角交換後のこの局面でボナンザは”7一角”と打ってくると渡辺明は予想し、席を外しました。
”7一角”と打つと、そのあと角銀交換になります。
その場合、大駒の”角”と”銀”の交換なので、角を手に入れた後手の渡辺明が有利になります。

しかし、渡辺明が席に戻ってくるとボナンザは”7一角”ではなく”6六角”と自陣に角を打っていました。

6六角

6六角としたボナンザ

この局面を観た渡辺明は「え?」という表情で困惑していました。

 

なぜ「7一角」としなかったのか?

ボナンザは”全幅探索”というしらみ潰しに全ての手を読む将棋ソフトでした。
そのため、深いところまで読むことを苦手としていたんです。

一つの局面で将棋には約60通りぐらいの手が存在します。

60通りの中の一つの手を指すとさらに60通りの手がある。
こうなると5手先を読むだけでも、7億7760万手も読まなければいけなくなります。
ちなみにこの時のボナンザは1秒間に400万手読む将棋ソフトでした。

しかし、従来のものに”選択的探索”という良さそうな手だけを絞って読み進める思考を取り入りたボナンザはさらに先を読むことができるようになっていたんです。

そのため、将来的に”7一角”は不利になる手だと判断し、その代わりに”6六角”としたんですね。

 

「6六角」の意味

「6六角は最初、意味がわからなかった」

と渡辺明は後述しています。
この手は常識にはない手で、考えている内にいい手だなと思うようになったとのこと。

ここからお互いに一歩も引かずに、大駒を成り合う展開になります。

8九飛成

お互いに大駒を成り合った局面

ここでボナンザは設定していた最長の考慮時間である8分30秒を使って次の一手を指しました。

それが”6四歩”です。

”8一馬”として桂馬を取らずにじっと歩を突きました。
この”6四歩”は馬の利きを止めるため人間では考えられない手だったようです。

「この手は相当読んでいる手なんですよ」
渡辺明

この手の意味は放っておくと6三の地点に”と金”ができるという意味と、”同歩”と応じた場合、一手早く”馬”を”5四”の地点に行かせることができるという意味でした。

この”6四歩”に対して、渡辺明は”3五銀”とします。

この手に対してボナンザは「読んでましたよ」と言わんばかりにノータイムで”3六歩”

「強すぎる…」と思わず声が漏れる渡辺明に対して、ボナンザ自身はここまでずっと先手(ボナンザ)有利だと評価していました。

 

運命の一手

1五金

1五金とした局面

上図は88手目、渡辺明が”1五金”とした局面です。

この時、渡辺明は負けを覚悟していたと言います。

渡辺明が読んでいた筋は
「2七香、2六金、同香、2七歩、3八金打、2八歩成、同馬」

こう進むと、馬の守りが固く”後手負け”になっていたという。

そのため、この局面でもしボナンザが”2七香”としていれば、渡辺明は負けでしたが、1分38秒考えたボナンザが選んだ手は”2四歩”でした。

2四歩

2四歩としたボナンザ

この手を「+230点」と評価した攻め将棋のボナンザらしい手でしたが、この手が敗着になりました。

このあともボナンザは自信があるかのようにノータイムでどんどん指してくるので、渡辺明は相当怖かったそうです。

それぐらい渡辺明自身もコンピュータの終盤力を評価していたということでしょう。

 

渡辺明の勝ち

ずっと自身の有利だと評価していたボナンザですが、107手目に「-496点」といきなり自身の不利を表す評価値を示しました。

そして、112手目、渡辺明が”2七歩”としたのを見て、開発者の保木邦仁が投了しました。

投了図

投了図

戦前の予想は渡辺明の圧勝でしたが、蓋を開けてみると、かなりの接戦となった将棋でした。

以下は関係者の後日談です。

米長邦雄「(敗着となった2四歩は)感情が入っているような将棋だった」

保木邦仁「目標の100手に到達できたので良かったです。なによりいい棋譜を残せたのが嬉しい」

勝又清和「ボナンザは奨励会三段ぐらいの実力がある」

渡辺明「あんなに強いんだったら、やんなきゃ良かった」

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