「コンピュータに将棋なんかやらせたらいけないよ」
「いずれ追い越されるかもしれないから」
大山康晴
第二回電王戦は人間対コンピュータの5対5の団体戦。
棋士側は、阿部光瑠、佐藤慎一、船江恒平、塚田泰明、三浦弘行。
コンピュータ側は、習甦、ponanza、ツツカナ、puellaα、GPS将棋。
第二回電王戦は人間側の1勝3負1持将棋という結果になりコンピュータの勝利に終わってしまいました。
目次
電王戦のルール
- 5対5の団体戦
- 持ち時間:4時間。切れたら60秒将棋
- 対局場:東京将棋会館
- ソフト側の代指し:三浦孝介初段(奨励会員)
- ソフトの貸し出しは自由
- ハードウェアの規定は無し
第2局以外は旧式の将棋ソフトが貸し出され、本番ではさらにバージョンアップした将棋ソフトが対局しました。
世界コンピュータ将棋選手権の上位5ソフトが出場
【世界コンピュータ将棋選手権の結果】
- 1位:GPS将棋
- 2位:puellaα
- 3位:ツツカナ
- 4位:ponanza
- 5位:習甦
【プロ棋士側の出場者】
- 阿部光瑠
- 佐藤慎一
- 船江恒平
- 塚田泰明
- 三浦弘行
【第1局】阿部光瑠vs習甦
- 先手:阿部光瑠四段(当時)
- 後手:習甦(竹内章)
読みのスピード:1100万手/秒 - 戦型:角換わり
113手で先手の阿部勝ち
習甦は1秒間に1100万手読む将棋ソフトで「羽生さんに白星を積み重ねたい」という願いをこめてつけられた名前が”習甦”です。
この対局で阿部四段(四段)は昼食に”うな重”と”マグロづくし”を注文する大食いっぷりを発揮。
”18歳の光速棋士”と称される阿部四段はまだまだ食べ盛りですからね。
この対局で阿部四段が勝つことができた要因としては”将棋ソフトの事前貸出し”が大きかったようです。
開発者の竹内章氏が「プロ棋士に自分のコンピュータの弱点を分析してもらいもっと強くしたい」とのことで阿部四段は習甦と練習対局を繰り返し”癖”を見抜くことに成功しました。
対局後のインタビュー
阿部光瑠
「緊張してましたが、盤の前に座るとやっぱり将棋は将棋なので、楽しく指せました。」
ちなみにこの将棋は不思議流とも言われている阿部四段(当時)独特の戦法である”0手損角換わり”でした。

投了図
【第2局】佐藤慎一vsPonanza
- 先手:Ponanza(山本一成)
読みのスピード:4000万手/秒 - 後手:佐藤慎一四段(当時)
- 戦型:力戦
141手で先手のPonanzaの勝ち。
26歳という年齢制限ギリギリでプロになった佐藤慎一四段は”米長邦雄vsボンクラーズ戦”を見て「プロなら対コンピュータ専用の作戦など使わずに勝つべきだ」と発言。
このことを聞きつけた米長邦雄会長(当時)が佐藤慎一四段を呼び出して出場が決まったそうです。
以下はその時のやりとり。
米長「君はコンピュータに勝つ自信があるのか」
佐藤慎「はい」
米長「君は俺の(6二玉)を指さないらしいね」
佐藤慎「はい」
米長「君は指さないで勝つ自信はあるのか」
佐藤慎「勝てます」
ポナンザの開発者の山本一成氏が将棋ソフトの貸し出しを拒否したため、唯一、この対局は事前に将棋ソフトを研究することができませんでした。
ちなみに貸し出しを許可されていた”ツツカナ”で佐藤慎一四段は練習していたようです。

投了図
現役のプロ棋士で初めてコンピュータに負けた佐藤慎一四段はブログで心境を告白しています。
未だ体が震えている
どうしてか
悔しいかすらわからない
【第3局】船江恒平vsツツカナ
- 先手:船江恒平五段(当時)
- 後手:ツツカナ(一丸貴則)
読みのスピード:480万手/秒 - 戦型:相掛かり
184手で後手のツツカナの勝ち。
唯一最初から出場が決まっていた棋士である船江恒平五段は、この将棋で評価値1000近くから逆転したものの敗れてしまいました。
ツツカナの序盤「7六歩、3四歩、2六歩、7四」というのは開発者の一丸貴則氏の作戦で、船江の師匠である井上慶太九段が指したことがある序盤にしたとのことでした。

4手目7四歩の局面
この将棋、ツツカナは残り時間が33分となってからは1分将棋で指しています。
これは考慮時間の切り捨て誤差だそうで、その誤差が詰み重なって残り33分からツツカナ自身は1分将棋に入ったと開発者の一丸氏は説明しています。
ちなみにこの年の大晦日にあったリベンジマッチで船江恒平五段はツツカナに勝ち、見事リベンジを果たしました。
【第4局】塚田泰明vsPuella α
- 先手:Puella α(伊藤英紀)
- 後手:塚田泰明九段
読みのスピード:400万手/秒 - 戦型:矢倉
230手で持将棋となり引き分け。
2012年に米長邦雄永世棋聖に勝ったボンクラーズが第二回電王戦では”Puella α(プエラアルファ)”と名前を変えて参戦。
午前中だけで50手も進むハイペースな将棋になりました。
午後に入ってからはPuella αの攻めを、受けてもきりがないと判断した塚田九段は、入玉を目指します。
この時はすでに塚田九段の敗勢でした。
対局後のインタビュー
「自分から投了することは考えなかった」
「7七玉から入玉を目指されたときは心が折れました。」
「完全に心が折れていたんですが、コンピュータがおかしな手を指し始めたので、もしかしたら……と」
と涙を流しながら答えた塚田九段に多くの将棋ファンは感動しました。
開発者の伊藤英紀氏の「コンピュータは名人を超えた」発言に対し、対局後は「異論は認めます」と苦笑いで回答していました。

終局図
【第5局】三浦弘行vsGPS将棋
- 先手:三浦弘行八段(当時)
- 後手:GPS将棋(田中哲朗・森脇大悟 他)
読みのスピード:2.7億手/秒 - 戦型:矢倉
102手で後手GPS将棋の勝ち。
GPS将棋は東京大学の600第以上のコンピュータを使った巨大クラスターマシンでした。
そのため読みのスピードは1秒間に2.7億手という出場した将棋ソフトの中でもズバ抜けています。
この将棋の序盤は、ほぼ定跡通りの相矢倉で進み、40手目からの7五歩、同歩、8四銀がポイントになりました。
8四銀が人間では指さない手で、攻めが細いのでやりにくいとのこと。

8四銀の局面
「7四歩から6四歩というGPSの構想には驚かされました。あんなに細い攻めをつなげてしまうのかと。」
屋敷伸之
対局後のインタビューでは「自分のどこが悪かったのか分からない」と振り返った三浦八段。
A級棋士がコンピュータに負けたことは将棋界に激震が走りました。
第二回電王戦の対戦結果
プロ棋士側の1勝3負1持将棋
第一局 阿部光瑠〇 習甦●
第二局 佐藤慎一● ponanza〇
第三局 船江恒平● ツツカ〇
第四局 塚田泰明△ Puella α△(持将棋)
第五局 三浦弘行● GPS将棋〇