「コンピュータの指し手から感情のようなものを感じました」と答えた清水市代女流王将(当時)
激指、GPS将棋、ボナンザ、YSSの4つの将棋ソフトの合議制システム”あから2010”
当時最強の将棋コンピュータあから2010と清水市代女流の対局を解説している記事です。
あから2010とは
”あから2010”とは「激指、GPS将棋、Bonanza(ボナンザ)、YSS」の4つの将棋ソフトの合議制システムです。
わかりやすく言うと、上記の4つの将棋ソフトが1つのコンピュータの中に入っていて、最終的な結論(手)を4つの将棋ソフトが話し合って決めるというものです。
実際のプログラムは多数決で決めているので話し合ってはいないんですけどね。
”三人寄れば文殊の知恵”と言うやつですね。
この激指、GPS将棋、Bonanza(ボナンザ)、YSSという4つの将棋ソフトは2010年の世界コンピュータ将棋選手権で上位に入った強豪ソフト。
名前の”あから”というのは10の224乗を表す単位”阿伽羅”から来ています。
ソフトも凄いんですが、もっとすごいのはハードの部分です。
あから2010のハードウェアはは東京大学の208台のスーパーコンピュータをつなぎ合わせたもの。
これは人工衛星の打ち上げに使うような規模なんです。
4手目に意表の3三角
対局が行われたのは東京大学の本郷キャンパス。
当時、”女流王将”のタイトルホルダーでもあった清水市代女流は和服姿で登場します。
この清水の和服姿の美しさに、情報処理学会の方々も本来のコンピュータ推しから、清水推しに変わったそうです。
この対局の持ち時間は3時間、切れたら60秒将棋でした。
先手の清水市代の”2六歩”で始まった将棋は4手目にあから2010から意外な手がでました。
”3三角”
この手はあから2010が清水市代に”角交換”をうながした手です。
定跡にはあまりない手に対し、清水は5分使って”同角成り”と望み通り角交換。
しかし、これがあから2010の用意していた作戦でした。
あから2010は事前に清水市代の棋譜を全て取り入れ、分析しています。
この3三の地点で角交換を迫ったのは、清水がこの地点で角交換した場合の勝率が低いことから導きだされたコンピュータ側の作戦でした。
5七角のタダ捨て
その後、手は進み、あから2010が”向かい飛車+美濃囲い”
一方の清水は”居飛車穴熊”を目指していました。
しかし、穴熊囲いを許さないあから2010はここから攻撃を開始します。
大きなミスもなくあから2010の攻めをいなしていた清水でしたが、66手目の5七角の対応にミスがでました。
先手の清水は桂馬と飛車を持ち駒にしているので”7四桂打”が厳しい攻めになります。
しかも角や銀といった駒が手に入れば、後手玉は詰むや詰まざるやの大ピンチに陥ります。
そんな局面で”5七角”とタダで角を捨ててきたあから2010。
コンピュータのことですから、この手で大丈夫と判断してのことでしょうが、人間にとってはとても考えにくい手でした。
清水はここで”同銀”ではなく”7七銀”としてしまいます。
これが痛恨のミス。
ここからはあから2010に一方的に攻められて清水の投了となりました。
あから2010の強さ
2007年に渡辺明先生がボナンザと対局した時、コンピュータの強さは奨励会三段レベルと評価されていました。
それから3年が経った2010年、コンピュータ将棋は、プロ棋士のレベルにまで達していたと推測できます。
強くても奨励会三段レベルの女流のトップと戦わせたのは少し、手合いが違うと感じた方も多いと思います。
実際に、投了図はあから2010の美濃囲いは無傷のまま残っていてコンピュータ側の圧勝です。
ミスもなく、感情の揺れもない、将棋で勝つことだけをプログラムされたコンピュータ。
この時すでにプロ棋士と同等、あるいはそれ以上の存在だったのかもしれません。