5対5の団体戦から1対1の二番勝負になった第一期電王戦。
将棋電王トーナメントで優勝したPonanzaに山崎隆之叡王は2連敗し完敗。
内容を見ても2局ともにPonanzaの完勝という将棋でした。
そして2016年には日本将棋連盟は対局時の電子機器の禁止を発表し、事実上の敗北宣言となりました。
第一期電王戦ルール
- 持ち時間:8時間の2日制、切れたら60秒将棋
- 将棋ソフトの貸し出し有り
- 将棋ソフトは将棋電王トーナメントの時と同じものを使用する
- ハードウェアは第3回将棋電王戦で使用されたものと同じ
- 封じ手以降は2日目の対局開始までコンピュータの思考は停止する
コンピュータ側は第3回将棋電王トーナメントで優勝したPonanzaが。
そしてプロ棋士側はた第1期叡王戦で優勝した山崎隆之叡王が第一期電王戦を戦います。
ロボットであるPeperくんの振り駒の結果、一局目の先手がPonanza、二局目の先手が山崎隆之叡王に決まりました。
ちなみにコンピュータ側の代指しは昨年の”電王手さん”からバージョンアップした”新電王手さん”が行いました。
第一局【後手】山崎隆之叡王 vs 【先手】Ponanza
2016年4月9日(土)~10日(日)
- 先手:Ponanza(山本一成、下山晃)
- 後手:山崎隆之叡王
- 対局場所:関山中尊寺(岩手県)
85手で先手のPonanzaの勝ち。
先手のPonanzaは初手に14分かけて”2六歩”としました。
コンピュータが初手に14分もかけるのは珍しいことではないようですが、人間の感覚からすると、かなり長いと思います。
人間は事前にある程度の指し手を決めてくるので。
序盤は横歩取り模様に進みますが、Ponanzaは”3四飛”と横歩を取るのではなく”5八玉”と上がりました。
これは定跡にはあまりない手で、後手に横歩を取らせようという”横歩取らせ戦法”です。
しかし、後手の山崎叡王も”8四飛”として横歩は取りませんでした。
その後、角交換してから激しい戦いになります。
後手の山崎叡王が”2五飛”と打った局面。
この局面では”4四歩”として一旦は受ける手が有力でしたが”2五飛”としたため大決戦になります。
このあとはPonanzaが一方的に攻め切り、85手で山崎隆之叡王が投了しました。
以下は記者会見でのインタビューより。
「自分の大局観を信じることができなかったのが、いちばんの敗因につながってしまったのではないかと思います。
山崎隆之
「勝ててうれしいです」
山本一成
二番勝負の一局目ということもあったのか開発者の山本一成氏は言葉少なめでした。
相掛かりの奇策
第一局と第二局の間には1ヶ月間の中日があります。
第一局に負けた山崎叡王は数日間は何もする気が起きなかったというほどPonanzaに負けた精神的なダメージがあったようです。
数日が経ち、第二局に向けての準備に取り掛かった山崎叡王は弟弟子である糸谷哲郎八段(当時)や千田翔太五段(当時)と共に対策を練りました。
この時に糸谷八段ら関西の棋士が提案した作戦は”奇策”とも呼べる序盤作戦でした。
初手”2六歩”と指すと、後手のPonanzaは”8四歩”と指す。
そして、このあと局面は以下のようになります。
ここで先手は人間同士の対局では成立しない”2四歩”と指します。
するとPonanzaは”相掛かり”の将棋にしてくるというものでした。
これはPonanzaの癖を見抜いた手でもあり、相掛かりの将棋は山崎叡王が最も得意にしている戦型でです。
奇策のようではありますが、山崎得意の戦型に持ち込むことで勝つ確率を上げるという作戦でした。
第二局【先手】山崎隆之叡王 vs 【後手】Ponanza
2016年5月21日(土)~22日(日)
- 先手:山崎隆之叡王
- 後手:Ponanza(山本一成、下山晃)
- 対局場所:比叡山延暦寺(滋賀県)
118手でponanzaの勝ち。
この対局で山崎叡王は棋士仲間が提案した”2六歩”ではなく初手に”7六歩”としました。
控室で検討していた千田翔太五段(当時)はこの初手に頭を抱えてしまったと言います。
山崎曰く「他人に教わったやり方で戦うのは自分を否定するようで、後で後悔すると判断した」とのことでした。
一方の開発者側としてはコンピュータの弱点や癖、バグを突いて勝ちに行く将棋を恐れます。
そのため開発者の山本一成氏は普通の手で挑んできたのを見てホッとしたそうです。
「山崎さんがもうちょっと邪悪に来ていたら危なかった」
山本一成氏
しかし、ここから山崎叡王は2枚の銀を中央に繰り出すという、いかにも山崎流というような展開にしていきます。
そして、勝負所がPonanzaが”5六歩”としたこの局面。
ここから”2二角成”と角交換をして強く行く手が有力でしたが山崎叡王は”5六銀右”とします。
「(その手は)ちょっとダメなんじゃないかと自分で結論を出した」
「相手の影の大きさに自分よりも相手を信頼してしまった」
山崎隆之
このあとPonanzaにじわじわと圧迫され1日目が終わりました。
2日目の最初の手は山崎叡王の”4九玉”という、いかにも独創的な山崎流の一手でした。
金や銀がいる左の方ではなく右の方へ”玉”を移動したこの手は誰も予想した人はいなかっただろうと言われています。
その後、山崎叡王が放った”1三歩”にPonanzaは”同玉”と応じます。
この手が疑問手だったようですが、山崎叡王はこの手を咎めることなく”6五歩”としてしまいます。
これが致命的なミスとなり、118手で山崎叡王は敗れてしまいました。
「(ponanzaは)自分の認識よりも はっきり進んでたというのは正直感じてます」
山崎隆之
「人間と戦う時用の戦法を山崎叡王は使ってきたので大分安心できました。」
山本一成
第一期電王戦の第一局と第二局はPonanzaの完勝とも言える内容でした。
そして、2016年、日本将棋連盟が対局時の電子機器の禁止を棋士全員に通達したことは「将棋ソフトの優位を認めた敗北宣言」とも捉えられています。