第二次世界大戦後、その勝者である連合国側は日本という国をもう二度と戦争をしない国に改造しようと軍国的要素を全て排除しようとしていました。その対象は武道から歌舞伎、針灸までとあらゆる日本文化でしたが、戦術ゲームである”将棋”は一度も廃止されることはありませんでした。
なぜ将棋は排除されなかったのか?
全ては升田幸三という大棋士のおかげでした。
GHQの排除の対象となった将棋
第二次世界大戦後、GHQによる排除の対象は武道から歌舞伎、針灸までとあらゆる日本文化でした。
将棋というボードゲームは頭脳を使う日本特有の戦術ゲーム。
もちろん”将棋”も排除の対象になっていました。
1947年夏、GHQ本部にて将棋という日本の戦術ゲームを排除すべきかどうかを決める事情聴取が行われました。
この事情聴取に呼ばれたのは一人の棋士。
その風貌はまさに野武士。性格は破天荒で酒豪、煙草も一日に100~200本も吸うという、分煙化が進む現代社会では生きていけないんじゃないかってぐらいの超ヘビースモーカー。
しかし、頭の回転の速さと度胸はズバ抜けていた。
この男こそが日本将棋連盟がGHQに送り込んだ”升田幸三”という大棋士です。
「升田幸三だ。話を聞きたいとのことなのでやってきた。」
この時まだ無名の升田幸三(29歳)ですが、のちに史上初のタイトル三冠王になったり、将棋の寿命を300年も縮めたと言われるぐらい新手を発明した凄い人なんです。
対するGHQの本部で待ち構えていたのは、GHQのナンバー2であるホイットニー将校です。
GHQのナンバー1であるダグラス・マッカーサーの次に偉い人物で、日本国憲法の草案に携わるなどGHQ内でも切れ者として知られていました。
そして升田幸三とGHQのホイットニー将校の将棋の運命を賭けた闘いがGHQ本部の一室で始まります。
その男、酒豪につき
ホイットニー将校が待ち受ける部屋に入るなり升田幸三はこう言いました。
「酒が飲みたい。客人にビールも出さないマナーがあるか?」
この時すでに升田幸三は酔っぱらっていたという説もあるほど酒好きな升田幸三ですが、酒を飲めばトイレが近くなりますよね。
難しい質問をされたらトイレに行ってじっくり考えるという作戦だったそうです。
それに万が一のために「酔ってたから何も覚えてない」と言うこともできるというのが升田幸三が用意していた作戦でした。
ちなみに升田幸三は5歳の時から呑んでいたようです(笑)
升田幸三のこの一言にGHQ側は意表を突かれました。
しばらくの間考えたGHQ側でしたが、結局升田の注文通りにビールが持ってこられます。
ただ、升田にとって計算外だったのはそれが”缶ビール”だったことでした。
当時の日本ではまだ缶ビールは普及しておらず、升田も缶ビールの存在を知りませんでした。
通訳にそれがビールであることを教えられるまで、缶詰だと思っていた升田は不意を突かれた格好になりました。
しかし、升田は缶ビールを一口飲んでこう言い放ちました。
「まずい!これ本物のビールか?」
GHQ側は呆気にとられたでしょう。
尋問されてる奴になぜかビールを注文されると、「まずい」と言われ、ビールであることまで疑われる。
- 放言癖
- 酒豪
- 破天荒
これが”升田幸三”という男なんです。
そしていよいよ升田幸三に対し、将棋の運命を賭けた質疑応答が始まります。
升田幸三vsGHQ
GHQ「日本の武道は危険なものではないか?」
升田「そんなことはない。「武」という文字は戈(ほこ)を止めると書く。それに武道とは己を磨くものである。」
GHQ「将棋は取った相手の駒を自分の駒として使用する。これは捕虜の虐待であり、人道に反するものではないか」
升田「取った相手の駒を自分の駒として使うということは優秀な人材に働き場所を与えているのだ。しかも飛車は飛車、金は金と同じ階級で使われる。こんな人道的なことはあるか? 一方でチェスは取った駒をそのまま捨てる。これは戦争でいう虐殺だ。しかも勝つためであるならクイーンまで犠牲にする。これは諸君らのレディースファーストに反するのではないか?」
GHQの将棋への質問に対し、升田の反論は読み切っていたかのような完璧なものでした。
しかし切れ者のホイットニー将校は切り札ともなるであろう事実を入手していたんです。
ホイットニー「戦時中に将棋の名人が軍部に戦術的指導をしていた事実がある。日本の軍部が間違った方向に進んだのは日本の将棋とその名人のせいではないか?」
ここまでは意味のとらえ方の差異だったので、なんとかなりましたが、今度は事実です。
しかも将棋が軍部に介入していたという事実。
もう浮気現場を見られた時ぐらい言い訳できない状況です。
しかし、升田幸三は逆転の発想でこのピンチを切り抜けます。
升田「戦争中、木村名人が軍部に講演して回り、日本が負けたのは事実だ。しかし、もし俺が講演して回っていれば日本が勝っていただろう。あの人はアメリカにとっては大恩人なんだ。感謝したほうがいい」
なんだか笑えてくるぐらいの見事な切り返しですね。
GHQが詰まされた日
ホイットニー将校の読みでは、これで升田幸三は詰むはずでしたので、これ以上の手は持っていません。
なにも言い返すことができないホイットニー将校を見て、升田幸三はここぞとばかりに畳み掛けます。
酒、チェス、血圧から政治まであらゆることを長々と説教たれます。
その時間なんと…。
5時間!
将棋の対局は朝から深夜まで12時間以上あるときもありますから升田にとっては何ともないかもしれませんが、ホイットニー将校からしたらもうたまりません。
「こんなに説教されるのマッカーサーさん以来だわ~」とか思っていたんでしょうかね。
GHQのナンバー2ですからね。
そして説教が終わると升田幸三は最後に一言だけお願いするんですね。
升田幸三「戦犯の連中を、殺さんで欲しい。取った駒を生かす将棋のようにどうか生かして役立てる道を考えてもらいたい」
GHQが戦犯を解放した理由
GHQを終始圧倒した升田は帰りにウイスキーまでもらったとか、もらわなかったとか…。
この日、升田幸三がGHQを論破したおかげで他の排除されてしまった日本の伝統文化と違い”将棋”は一度も禁止されることなく継続できたんですね。
後日、升田幸三の説教が功を奏したのか、全員処刑される予定だった日本の戦犯や捕虜をGHQは釈放します。
この釈放された中に岸信介という後に総理大臣になる男がいて、その孫が安倍晋三元総理大臣なんですね。
GHQのNo.2相手に説教たれる日本人がいなかったら日本の歴史は変わっていたかもしれないですね。
https://shogi-oute.com/denousen3/