この記事ではB級順位戦で起きた”将棋界のワープ角事件”を後日談を含めて解説しています。
当時の菅井竜也七段と橋本崇載八段の対局です。
菅井七段優勢で進んだ局面から角のワープ、そして幻の5五銀打つで「その角はどこから来ましたか?」と聞く記録係。
菅井新手『ワープ角』
2018年の順位戦B級1組7回戦。
菅井竜也七段と橋本崇載八段の将棋対局で事件は起きました。
時刻は夜の10時、手数はすでに100手を超えていて、局面は先手の菅井七段有利でした。
持ち時間は菅井七段が3時間以上残っているのに対し、橋本八段はあと7分。
この不利な状況で橋本八段は”7五飛車”と指しました。
この手に対して3分近く考えた菅井七段はなんと7九にいた角を”4六角”とワープ。
6八にいる”と金”を飛び超えて行った角。
これが伝説の”ワープ角事件”です。
結果はもちろん菅井七段の反則負け。
幻の5五銀打つ
このワープ角事件にはまだ続きがあるんです。
この日、橋本八段は時間も局面も不利なため、負けを覚悟していたといいます。
橋本八段に7五飛と指された菅井七段は「7五飛車、6八角、7八飛車成り、4六角…」と3分ほど読みを進めて、いきなり”4六角”と指しました。
後日談で菅井曰く。
「でも、この手がバカにいい手で!めちゃくちゃいい手!!」
と大絶賛。
記録ではここで先手(菅井七段)の反則負けとなっていますが、まだ続きがあり、4六角とワープ角を指された橋本八段は「うんうん」と頷き。自分の駒台の銀を取って…。
”5五銀打”
相手の反則に全く気付いていない橋本八段。
普通に指しました。
この時、菅井七段はというと。
「僕も銀を打つ一手だと思っていた」
とのこと。
そこで既に気付いていた記録係が「あの…すいません」と申し訳なさそうに言うと。
菅井七段は記録係の子が時間がわからなくなったと思い「あぁ、ゆっくりでいいよ」と大人の勘違い対応。
それでも記録係が「その角はどこから来ましたか?」と問いかけると、橋本八段が「うお!!」と叫びながら驚く一方で、菅井先生はなんのことだかしばらくわからなかったそうです。
なぜ反則に気付かないのか?
7五飛の局面から「6八角、7八飛車成り、4六角…」と進むことを両対局者共に読んでいた可能性があります。
そのため、頭の中ではすでに4六角の局面で、このあとどう指すかを考えていて、それで、いきなり4六角と角をワープされても両者共に気付かず「うんうん、やっぱりそう指すよね」といった様子だったんだと思います。
読み筋が合っていたんですね。
それで局面もそこまで進んだものだと勘違いしてしまったんじゃないでしょうか。
この時、両対局者は反則に気付かず盤上に没頭していたものの、記録係だけが啞然とした表情で座っていたそうです。
このあと4六角に”5五銀打つ”と橋本八段が指し続けたのを見て「あっこれはやばい僕が言わなきゃ進むやつだ」と記録係の少年は思ったんでしょうね。
言いにくそうに「その角はどこから来ましたか?」
それにしても、これすごく賢い聞き方ですよね。