叡王戦の久保利明vs豊島将之戦で久保九段が対局時刻を間違え、不戦敗となってしまった対局を詳しく解説している記事です。
1時間ずっと正座で待ち続ける豊島七段(当時)と飛行機で駆け付け不戦敗になる当時のトップ棋士久保九段。
ニコニコ動画ならではのアンケート「久保先生は来ると思いますか?」などなど、0手で終わったのにコメントで盛り上がった対局でした。
久保利明vs豊島将之
- 2016年10月30日
- 第2期叡王戦本戦
- 先手:豊島将之七段(当時)
- 後手:久保利明九段(当時)
- 持ち時間:1時間
- 解説:中村太地 六段(当時)
- 聞き手:竹部さゆり 女流
当時の叡王戦はドワンゴが主催だったので、本戦の全対局がニコニコ動画で生放送されていました。
この日の対局も、もちろん生中継されていました。
待つ”豊島”と駆け付ける”久保”
この日、対局室には豊島将之七段(当時)と記録係のみで、久保利明九段(当時)の姿はありませんでした。
この対局は東京の将棋会館で14時から対局が始まる予定でしたが、久保九段は午後7時開始だと勘違いしていたため、到着がかなり遅れると日本将棋連盟の職員から伝えられました。
久保九段は14時開始なのを19時開始と勘違いしたため、到着がかなり遅れるということでした。
しばらくして職員から「振り駒をして、駒を並べてください」と告げられ、記録係が振り駒を行いました。
振り駒の結果は”と金”が4枚で豊島先生の先手番に決まり、豊島先生は自分の分の駒を並べ、そして、久保先生の駒も並べられました。
以下、ネットのコメントです。
「初めて見たwww」
「並べてあげてるw」
「こっそり飛車と角を入れ替えちゃおう!」
と、ニコニコ動画らしくコメントで視聴者は盛り上がっていました。
駒を並べ終えた豊島先生は「きちんとしておきたい」という気持ちから、ほとんど身動きせずに正座のままで、じっと久保先生の到着を待っていらっしゃいました。
竹部女流
「先生、本当にソツがないですよね」
中村太地
「ここはソツがあってはいけないんですよ」
ちなみに豊島先生はこのまま対局終了までの1時間正座のままでした。
この姿を見た視聴者からのコメントは…。
「相手が来ない状態で、ずっと対局室でテレビの前に1人座ってるの緊張するから、途中で離席してトイレ行ったり、別室で休んでもいいのに一度も離席せずに対局室でじっと待ってますからね。豊島七段好きになりました!」
「豊島七段がずっと待ってる映像流れててめちゃくちゃかわいい」
「1秒1秒豊島先生が好きになっていく動画と化している叡王戦」
と豊島先生の好感度が爆上がり状態に。
そして、ここでニコニコ動画おなじみのアンケート機能により「久保先生は来ると思いますか?」とのアンケートが取られ…。
「来る」が56.1%
「来ない」が43.8%
という結果に。
この時はまだ久保九段の登場に期待する人の方が多かったのですが、久保先生が乗れた飛行機は14時30分だったということで、まず間に合いません。
久保九段の不戦敗が成立
持ち時間である1時間が経過した15時に、職員が「時間になりましたので、豊島先生の不戦勝となります」と告げ、久保先生は空の上で不戦敗が決まりました。
叡王戦は他の公式戦などと異なり、持ち時間は1時間と短く。そのため、「3倍引き規定」(遅刻時間の3倍を持ち時間から引かれるルール)などの決まりはありません。久保九段は遅刻により持ち時間の1時間を使い切ったため、規定に基づき不戦敗が成立したようです。
豊島先生はペコリと一礼して、駒を”玉飛角金銀桂香歩”の順番でしまってから足を崩し、ふくらはぎを数秒もんだだけで、すっと立ち上がりました。
「何かできることがあればしたい」と言う豊島先生は、その後、ニコニコ生放送に出演し…。
「対局を楽しみにされていた方が沢山いらっしゃったと思うので、申し訳ないというか…」
と述べられた豊島先生でした。
視聴者コメントではもちろん「良い人すぎる」と間違いなく豊島先生のファンが増えた一日でした。
豊島先生はその後、深浦康市九段との対局を自戦解説されていました。
久保九段が謝罪
久保九段は不戦敗決定後、午後6時30分から放送された別対局の中継冒頭に出演し、対局に遅刻したことを謝罪しました。
久保九段の謝罪は以下。
「まずはじめに、今回2時からの対局を不戦敗にしてしまいまして、申し訳ありませんでした。主催でありますドワンゴさまに対しては申し訳なく思っております。申し訳ありませんでした。
並びに対局を楽しみにしてくださっていました将棋ファンの皆さまにもお詫び申し上げます。対戦相手の豊島七段にも申し訳ないことをしたと思います。申し訳ありませんでした。」
「自宅が大阪なのですが、お昼ぐらいに出て、少しゆっくりして対局に臨もうと思っていた。最後に対局通知を確認すると、14時からとなっていた。それで慌てて…。空港にも行ったんですが、最善を尽くしましたがどうしても間に合わないという状況でした」
「棋士の命と言いますか、対局を不戦敗にしてしまうというあるまじき行為をしてしまいました」とした上で、「取り戻すのは大変だと思いますが、信頼を取り戻せるように対局をやっていきたいと思います。本当に申し訳ありませんでした」
トップ棋士の遅刻による不戦敗は異例のことでしたし、さらに当時の久保先生は棋士会の副会長という要職にもついていました。
なにより、生中継での不戦敗(不戦勝)はインパクトが強く、テレビなどでも報じられる珍しい出来事となりました。