2022年12月22日の順位戦B級1組”近藤誠也vs千田翔太戦”で初手の反則負けがありました。
開始直後、後手番である千田七段が”先に初手8四歩”を指してしまい反則負けとなりました。
準備の段階からずっと自分が先手番だと思い込んでいたそうです。
10時に始まった対局ですが、10時半には帰路についていた千田先生。
その時の対局および後日談を記事にしています。
初手”8四歩”
2022年12月22日の順位戦B級1組”近藤誠也vs千田翔太戦”
近藤七段(当時)と千田七段(当時)は呼吸を整え、盤の前に座り合っている中、記録係が対局開始の声がかかります。
「近藤先生の先手番でお願いします」
対局が始まり、両者共に飲み物を口にします。
プロ棋士の将棋では初手に数分時間を使うことは珍しくありません。
そして、戦いの火ぶたを開ける初手が指されました。
初手”8四歩”
ん?
局面図で見ると8四歩は…。
後手が先に指してる!?
おそらく近藤七段も驚いたことでしょう。
そして、記録係から千田七段に指摘が入ります。
千田先生はあまりの驚きに「えっ!」という大きな声を発し、周りで対局している棋士達も全員が千田先生に注目します。
その後、立会人であった土佐八段(当時)が呼ばれ、正式に千田七段(当時)の反則負けとなりました。
初手に反則にあたる手を指したので公式記録では”0手”で近藤七段(当時)の勝ちとなりました。
こちらの反則は、千田翔太七段(当時)が後手番であるにも関わらず、先に初手を指してしまったことによる反則で、規定上、これは”二手指し”という反則になるようです。
千田翔太先生曰く。
「対局のかなり前の段階から先手と勘違いして準備をしていました。棋譜用紙や記録係の開始合図で気付くこともできたと思いますが、盤面に集中してしまっていました。対局相手である近藤さん、応援して下さるファンの皆様、主催者に大変申し訳ない気持ちでいっぱいです。棋士として対局を楽しみにしていたので、自分のミスで指すことができなかったことを大変残念に思います」
「近藤先生の先手番でお願いしますという記録係の声はあったと思いますが、集中力が高まっていて、その声は素通りする感じでした」
順位戦はあらかじめ先手と後手が決まっているのですが、千田先生は後手番なのに、ずっと先手番だと思っていたようで、準備はもちろん、対局でも当然先手だと思い、指してしまったようです。
反則負け直後の千田翔太
千田翔太先生は対戦相手の近藤誠也七段に対して、「対局を成立させられず、申し訳ない」という思いに駆られたと同時に、隣で対局していた兄弟子の山崎隆之八段(当時)を見やって「動揺させてしまって、すみません」という心境になったそうです。
「後手なのに先に指して反則負けをしました」
「会えるようだったら今日、師匠のところに行きます」
反則負けをしてしまった当日の午前10時半頃、将棋会館を去る直前に千田先生は記者にそう告げたようです。
千田先生の師匠は森信雄先生で、兵庫県在住です。
千田先生は東京から師匠宅へ向かうため帰宅して、まず師匠に電話を入れたものの、繋がらなかったので、行くのを断念。
すると、昼過ぎに師匠の森信雄先生から電話があり、手番を勘違いしての反則負けについて、温かい言葉をかけてもらったそうです。
森先生は優しいですね。
千田先生曰く「日を改めて来年、師匠に会いに行きます」とのことでした。
千田翔太の後日談
対局から2日後。
「反則負けのダメージは、ほぼないです」
と千田先生は食欲が落ちることもなく、睡眠も十分に取れているそうでした。
千田先生は”二歩”や”二手指し”といった将棋の反則負けの事例を考えているうちに「今回は1手も指すことなく負けたので、自分は盤上ではどうすることもできなかった」という考えに至り、すっぱりと割り切ることができたそうです。
ただ、「棋士としてあるまじき反則負けなので、今後は思い込みには十分注意したいです」と反省の弁を述べられました。
初手で反則負けをしたプロ棋士
東和男vs有吉道夫
2007年7月のC級2組2回戦での東和男七段(当時)vs有吉道夫九段(当時)戦では、後手の有吉九段が初手に”3四歩”としてしまい、やはり反則負けとなっています。
甲斐智美vs関根紀代子
女流棋士でも、2007年4月の倉敷藤花戦2回戦の甲斐智美女流二段(当時vs関根紀代子女流四段(当時)戦。
振り駒をして甲斐女流二段先手と決まったあとで、やはり後手の関根女流四段が初手を指してしまい反則負けになっています。
中村太地も危なかった初手
中村太地先生のYouTubeチャンネルで語られていたことですが。
中村太地「僕も実は順位戦で、対局開始のときまで、僕が、自分がたしか後手番だと思ってたのに、記録係から『それでは中村先生の先手番でお願いします』って言われたことがあったの。で、『えっ?』ってなって。『今日、後手番じゃなかったの?』って思って。パニックになって。あわてて、どうしようかなとなったときに、下の階(将棋会館階下の事務室)に順位戦の表が貼ってあるわけですよ。先後が決まった表があって。それを見に行って。当然、記録係の発声が合ってたんだけど。『マジか・・・』ってなって」
鈴木肇「先生の場合でもそういうことがあるんですね」
中村太地「その1回だけ。もう本当に、心臓飛び出るかと思った。後手番の対策を延々と用意していったのにさ、急に『先手番でお願いします』と言われて」
勘違いは誰でもあることですが、初手で負けになるのはかなりもったいないですよね。
「錯覚いけないよく見るよろし」ですね。