将棋の戦法である”藤井システム”の誕生秘話です。
藤井猛九段の竜王三連覇の原動力となった藤井システムの凄さ、そして、プロ棋士達の藤井システムに対する称賛のコメント。伝説の一号局。竜王位奪取から三連覇までをまとめました。
藤井システムとは
藤井システムとは”序盤の革命家”とも称されている”藤井猛九段”が発明し、定跡まで整備してしまった画期的な戦法です。
主に対居飛車穴熊戦に起用され、穴熊に組ませる前に攻め潰すことで知られています。
この藤井システムは当時、ものすごく突飛な戦法でした。
羽生先生も初めて藤井システムを見た時は「ふざけているのかと思った。」とコメントするほどで。
なぜなら将棋には以下の格言があります。
- 居玉は避けよ
- 玉飛接近すべからず
藤井システムはこの2つの格言の逆を行く、振り飛車の大革命とまで言われた戦法なのです。
上図の先手が藤井システムです。
居玉のまま囲いを作り、玉と飛車が接近しています。
このあと、いつでも2五桂と跳ねて攻撃できる駒組みが特徴で、上図のこの対局は藤井システムの第一号局である藤井猛六段(当時)と井上慶太六段(当時)の将棋です。
ファンの間では「伝説の始まり」と呼ばれる藤井システムの会心譜でもあります。
藤井システム誕生秘話
1995年、将棋界では振り飛車党が居飛車党に大苦戦していました。
当時の居飛車党は「矢倉の研究で忙しいから、振り飛車相手には”穴熊”か”左美濃”を交互にやっていればいいんだ」という定説まであり、振り飛車は相手にもされていない状態でした。
実際、振り飛車党は当時、居飛車穴熊に大苦戦を強いられていました。
そんな振り飛車党のピンチを救うように”藤井システム”は誕生しました。
きっかけはある日の藤井猛先生の隣の対局でした。
「居飛車穴熊の対策どうしよかなー」と考えていた当時の藤井猛九段はおもしろい将棋を発見します。
それは隣で指していた杉本昌隆三段(当時)の将棋でした。
のちの藤井聡太先生の師匠でもあります。
それが上の将棋です。
なんだか桂馬を跳ねていけば、居飛車の穴熊を牽制できそうな局面ですね。
藤井九段はこの杉本三段の将棋からヒントを得て、藤井システムを思い付いたそうです。
そして、藤井システム一号局となったのは上述した井上慶太六段(当時)戦です。
当時の井上は対振り飛車には居飛車穴熊をよく指すことで知られていました。
なので「穴熊イヤだなー」と思っていた藤井猛六段(当時)は藤井システムを使ってみることに。
そしたら、なんとたった47手で圧勝してしまいました。
「これはすごい…」と自身も驚愕した藤井猛先生。
普通なら、対居飛車穴熊はこれから、この藤井システムで連戦連勝と行くんですが、序盤の革命家として知られる藤井猛はこのあとどうしたのかと言うと…。
藤井システムを使わずに温存しました。
藤井システム封印の理由は以下。
- 研究されるので人に見せたくない
- ここぞとという時まで温存
- 一人で研究したいから
と、藤井猛先生ちょっとせこいなと思ったのはここだけの話。
それからというもの、ほとんど藤井システムを使うことはなく、一人でもくもくと藤井システムの研究に没頭していきました。
当時の状況を藤井先生はこう語っています。
「初めの頃は居飛車穴熊に対するワンポイントリリーフとして藤井システムを考えていた。しかし、一号局で47手で圧勝してしまい、これはなんか違うなと感じた」
だから、改良に改良を加え、一人で定跡を整備していったんですね。
藤井システムで竜王位獲得
当時、順位戦も2期連続で昇級するなどイケイケだった藤井猛先生は竜王戦のタイトルの挑戦者になりました。
もちろんここまで藤井システムは使っていません。
封印です。
そして、迎えた竜王戦七番勝負。
当時の谷川浩司竜王を相手に、ここぞとばかりに藤井猛先生は”藤井システム”を連投します。
その結果、なんと4勝0負という圧倒的な強さで竜王位を奪取してしまいました。
藤井猛竜王の誕生です。
当時の谷川先生は藤井システムというものがあることは知っていたそうですが、対局数が少なすぎて対策の建てようがなかったようです。
これも全て、最後まで封印しておいたおかげでしょう。
その後、藤井システムは研究されていきますが、当時は「藤井システムを指しこなせるのは藤井猛だけ」と言われるほど理解しにくい戦法だったということもあり、藤井猛先生はその後、竜王位を3連覇します。
藤井システムの凄さ
藤井システムの考案者である藤井猛先生は1997年の”升田幸三賞”を受賞しています。
升田幸三賞とは新手や新戦法の考案者に送られる名誉ある賞で”新手一生”を掲げた升田幸三の名前が由来しています。
以下、藤井システムに対するプロ棋士の意見と称賛のコメントです。
「この戦法がすごいのは、藤井さんがひとりでシステムを構築したこと」
佐藤康光引用元:wikipedia
「藤井システムの特異な点は、すでに完成されたひとつの分野として提示されたことです。藤井さん独自の研究量·新手の多さでも際立っており、今後このような新研究は現れないのではないでしょうか」
飯塚祐紀引用元:wikipedia
「世代が大きな影響を受けた戦法。みんな、狂いそうなほど研究しました。将棋の才能という面では、藤井九段が現役で一番ではないかと思います」
大平武洋引用元:wikipedia
羽生先生も王位戦の前夜戦での質問にこう答えています。
【生まれ変わったら誰になりたいですか?】
羽生「藤井(猛)さんになって藤井システムを発明したいです(笑)」
※ちなみにこれは挑戦者だった藤井猛先生がその時の質問に「羽生さんになってタイトルを取りまくりたい!」と先に言ったことに対する羽生の返しです。
なお、振り飛車党が多いアマチュア界では藤井システムというかっこいい戦法を生み出した藤井猛先生はとても人気があり”てんてー”の愛称で親しまれています。