女性で初めて将棋のプロ棋士試験を受けた里見香奈女流五冠(当時)の試験内容と結果をまとめた記事です。
里見女流は対プロ棋士相手に公式戦で10勝4負をあげ勝率7割超えだったためプロ棋士編入試験を資格を得て、受験しました。
第一局の徳田拳士四段戦、第二局の岡部怜央四段戦、第三局の狩山幹生四段戦の3局に敗北したため、プロ棋士編入試験の結果は不合格となりました。
以下、当時の将棋内容とコメントをまとめました。
里見香奈とは
- 出身: 島根県 出雲市
- 生年月日: 1992年3月2日
- 師匠:森けい二 九段
- 身長: 164 cm
当時の里見香奈女流は女流のタイトルを5つ保持しており(清麗、女流王座、女流王位、女流王将、倉敷藤花)女流棋士のトップとして活躍していました。
プロの編入試験は最もいいところで見て、10勝以上かつ、6割5分以上の勝率を達成すると受験することができます。
ちなみに受験料金は50万円です。
里見香奈女流は当時、プロ棋士を相手に公式戦で10勝4負の勝率7割1分4厘という成績だったため、2022年6月28日にプロ棋士編入試験への受験を発表しました。
プロ棋士編入試験は現役のプロ棋士5人と対局し、3勝すれば合格となり、晴れてプロ棋士になることができます。
5局それぞれの対局は1局目だけ振り駒を行い、それ以降は先手と後手を交互に対局が行われます。
持ち時間は全て4時間です。
第一局 徳田拳士四段戦
プロ編入試験第一局
- 2022年8月18日
- 先手:徳田拳士 四段(当時)
- 後手:里見香奈 女流五冠(当時)
- 解説:羽生善治 九段(当時)
- 聞き手:鈴木環那 女流
「良い成績で対局を迎えたいという気持ちで頑張っていました。試験官に恥じない将棋を指したいです」
こう語る徳田四段は、この日の対局まで8連勝中と絶好調でした。
将棋の内容は、大方が予想していた通り、後手番となった里見香奈女流が得意の中飛車を選択しました。
里見女流は定跡から離れた形に持ち込みましたが、やや不利に…。
しかし、徳田四段がミスをしたために形勢は不明になります。
その後、里見女流にもミスが出てしまい、徳田四段が優勢から勝勢に。
”出雲のイナズマ”の持ち味である攻めの将棋が指せず、やや消極的な手が多かった里見女流は、そのまま徳田四段に押し切られてしまいました。
よってプロ編入試験第一局目は127手目にて徳田四段の勝ちとなりました。
対局後のコメント
徳田四段
「普段はトップ棋士やタイトルホルダーが座る最上席の上座で指すのは初めてだったので、良い経験になりました。里見さんは同じ関西本部所属として顔見知りでしたし、特に緊張はしませんでした。正直に言えば、私も里見さんを応援している側なのでやりたくはなかったんですが、試験官となった以上は全力で戦おうと思っていました」
里見女流
「こういった大きな舞台で指せることはなかなかない。次局以降もしっかり準備して、目の前の対局に全力を尽くしたい」
第二局 岡部怜央四段戦
プロ編入試験第二局
- 2022年9月22日
- 先手:里見香奈 女流五冠(当時)
- 後手:岡部怜央 四段(当時)
- 解説:戸辺 誠 七段(当時)
- 聞き手:内田 晶 女流
対戦相手の岡部玲央四段は里見女流が奨励会時代に共に三段リーグを戦った間柄でした。
本局は里見女流の先手となり、里見女流の十八番である”先手中飛車”に。
里見女流は5筋の歩を中央に進め、位を取ります。
対する岡部四段は里見女流の先手中飛車対策をしており、銀を繰り出すことで急戦を狙い、里見女流の銀を固定させます。
その後、持久戦にシフトし、雁木から穴熊に組みかえる、という凝った作戦をとりました。
これは”雁木穴熊”と呼ばれ、岡部四段はさらに工夫をし、角を転換してから穴熊に組みました。
対する里見女流も冷静に対応し、形勢は互角に進みます。
本局のAbemaTVでの中継解説は菅井竜也先生で、以下菅井先生のコメントです。
「初めて会ったのが(旧学年で)小学4年生ですね。自分が4年生で、里見さんが5年生ぐらいのときで。小学生の全国大会で初めて会ったというか、初めて見たという感じでした。そのとき里見さんもう有名で。女の子ですごい強いみたいな。そのときも中飛車でこの5五歩位取り中飛車を得意にされてた印象ですね」
「里見さんがすごいのは、例えば昨日まで地方で対局していても、対局が遅くても、翌朝には(研究会に)来るんですよ。疲れたまま来ていたとしても、今日はこういう将棋を指そうというテーマがあるんです。せっかく行くなら準備していこうという。こっちもモチベーションがあがりますよね」
「なんか、応援しているみたいですけど・・・。間違いなく応援しているから。里見さんの応援ですからね」
と、菅井先生の応援があったものの…。
132手で後手の岡部四段の勝利となりました。
「歩切れの相手には歩を渡したくない」
「穴熊相手には手堅くいきたい」
「自陣に金を埋めれば負けにくい」
「打ったばかりの角は切りにくい」
などの将棋のセオリーとは逆を行く手が好手となる珍しい将棋でした。
対局後のコメント
岡部四段
「立場上は試験官ですが、里見さんはそうそうたる相手に勝っていますので、そういう気持ちはありませんでした。注目される勝負なので、良い将棋を指したいと思っていました。対局開始時、取材が多く立会人もいて緊張しましたが、特にプレッシャーなく自然体で指せたと思います。中飛車は予想通りで途中までは研究手順です。やや強引に攻めたので、歩を打たれていたら悪かったと思います。角を切って桂打ちは狙っていました」
「自分から局面を動かしに行ったが、無理気味でちょっと苦しさを感じていた。後手3六歩(90手目)から後手2四桂(96手目)で難しくなっていると思いました」
里見女流
「大事なところで間違えてしまったので、仕方ないかなと思います。大事なところというのは5七金打と打たれたあとぐらいからです。第三局は自分の力を出し切れるようにがんばりたいと思います」
第三局 狩山幹生四段戦
プロ編入試験第三局
- 2022年10月31日
- 先手:狩山幹生 四段(当時)
- 後手:里見香奈 女流五冠(当時)
- 解説:木村一基 九段(当時)
- 聞き手:飯野 愛 女流
「里見さんとは竜王戦で対戦もしていますので、特別プレッシャーはありません。(里見2連敗については)ここまでのことは考えず、自分らしい良い将棋を指したいと思います」
対局前にこう語った狩山幹生四段との対局は大阪の関西将棋会館で行われました。
第一局、第二局と同じく、里見香奈女流は得意の”中飛車”を採用。
里見女流が攻める展開となりましたが、狩山四段の金が計10回も移動する大山康晴名人のような受けで、出雲のイナズマの攻めを完封しました。
プロ編入試験第三局は103手にて里見女流の投了となりました。
これにて、プロ編入試験は3連敗となり、不合格が決定。
対局後のコメント
里見女流
「迷いながら指してしまったので本意な展開ではなかった。今の自分の実力だと思うので、また勉強して頑張りたい」「対策を練って臨んだが、中盤から終盤にかけての優劣が分からない段階で、読み負けている部分があったので、実力不足、弱いということにほかならないと思う」
「やはり実力が及ばなかった。終盤のねじり合いで読み負けている部分があった。実力不足。こういう大きな舞台で敗戦することによって自分自身も成長できると思っている。今後の糧にしたい」
プロ棋士編入試験の総括
このプロ編入試験の対局で、里見女流は、自分の将棋が指せていない印象を受けました。
当時”女流五冠”だった里見女流の一番の敗因はその多忙なハードスケジュールにあり、タイミングが悪く、かつ調子が落ちていた時期でした。
そのため里見女流の駒は、前に進んでおらず”出雲のイナズマ”らしくない将棋内容でした。
再度のプロ編入試験への挑戦を聞かれた里見女流は以下のようにコメントしました。
「私自身、今回が最後の挑戦としていたので、受験を考えることはないと思います。」
なお、第三局までで、結果が確定したため、第四局の横山友紀四段戦と、第五局の高田明浩四段戦は行われませんでした。
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