将棋界の最短手数での終局記録はたった”10手”なんです。
もちろんプロ同士の将棋での記録です。
その時の対局で、佐藤大五郎先生は相手の中原誠名人に「こんな指し方は名人に対して失礼だ」と言って投了したそうです。佐藤大五郎先生はどんな指し方をしたのか?失礼な将棋だったのか?その他にもいくつかの不可解な点を解説している記事です。
10手で投了
将棋界には様々な記録があります。
その中でも最短手数での投了記録があり、
その手数なんと、たったの”10手”です。
1974年の棋聖戦の本戦トーナメントでのこと。
当時の中原誠名人と佐藤大五郎八段の対局で10手での投了は起きました。
勝ったのは時の名人である中原誠。
終局図は以下の通り。
まだ序盤の駒組み段階という感じですが、この時投了した佐藤大五郎八段は
「こんな指し方は名人に対して失礼だ」
と言い、投了したそうです。
しかし、この対局には不可解な点がいくつかあります。
- 序盤早々桂馬が7七の地点にいること
- 佐藤大五郎八段が初手に231分使っていること
- 中原誠名人が10手目に52分も使っていること
順番に解説していきます。
名人に鬼殺し
なぜ桂馬が7七の地点にいるのか?
10手で終わった将棋にも関わらず、序盤早々7七の地点に桂馬がいます。
これは対抗系の将棋にしては珍しいことです。
佐藤大五郎先生と言えば久保九段が尊敬する振り飛車党の大棋士です。
当時は”薪割り流”と呼ばれ、タイトル戦にも挑戦したことのあるトップ棋士でした。
この時の対局で用いた戦法も振り飛車である四間飛車ですが、先手の佐藤大五郎八段がわずか3手目に7七桂としています。
この手の出だしは”鬼殺し”と呼ばれるハメ手で、このハメ手が決まったら鬼でも倒すことから”鬼殺し”と呼ばれています。
しかし、プロの将棋では見ることのない戦法です。
この”鬼殺し”という戦法はアマチュア向けの戦法で、プロにこの戦法を使っても通用しないからです。
アマチュア向けのハメ手を指したことから「こんな指し方は名人に対して失礼だ」と言ったことがうかがえます。
76分の遅刻
この日、佐藤大五郎八段は76分の遅刻をしています。
電車の遅延証明書等の正式な理由証明がなかったので3倍の228分が持ち時間から引かれています。
さらに、初手に3分の時間を使われて、合計して231分が初手に費やされたことが記録されています。
この遅刻の理由ですが、佐藤大五郎先生曰く「家を出かけたとき頭痛がしたので、病院で注射を打って来た」という趣旨を観戦記に書かれていました。
これで佐藤大五郎八段が初手に231分使っている理由がわかりました。
形成はまだ互角だった
本来は序盤早々仕掛けていく鬼殺し戦法ですが、持久戦模様の将棋になっています。
このこともあってからか10手目の4二玉に当時の中原名人は52分もの時間を使われています。
つまり、まだまだ難しい将棋だったので中原先生も時間を使って考えたということです。
ちなみに投了時の消費時間は
- 中原1時間12分
- 佐藤4時間30分
でした。
10手で投了した本当の理由
両者の消費時間の謎が解け「指し手が失礼」なのも納得できます。
しかし、形成はほぼ互角だったこともあり、たった10手で投了するのはいかがなものでしょうか。
この対局の後日、佐藤大五郎先生は観戦記で、体調が優れなかったことを記述されています。
遅刻の理由も病院に寄ったとのことですが、体調が良くなることはなく、我慢できずに投了したとのこと。
10手という最短手数で投了した本当の理由は”体調不良”だったんですね。
それにしても投了する際の理由として「こんな指し方は名人に対して失礼だ」と言ったのがなんとも棋士らしいですよね。
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